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自力推進。

漫画・小説の書評のようなモノ。映画・アニメ感想的何某。他

【映画感想】大切な情報はケツに隠せ!ー『ボーン・アイデンティティー』

映画 感想

ボーン・アイデンティティー (吹替版)

 

マルセイユ沖にて、意識不明の男が漁船に引き揚げられる。背中に二発の銃弾、そしてお尻に銀行口座を示すカプセルを埋め込まれた謎の男。意識を取り戻した男は自分が何者なのか、一切の記憶を無くしていた。

男は自分が何者なのかを確かめるため、尻に埋まっていたカプセルが示すチューリッヒの銀行へ。そこにあったのは銃、大量の各国紙幣、そして様々な身分を示すパスポート(パスポート写真は自分自身)

ジェイソン・ボーンは自らを狙う暗殺者と戦いながら、無くした記憶を追う。

 

 

と、サスペンスフルな導入のこの映画。話が進む中で、マット・デイモン演じる主人公ジェイソン・ボーンはCIAが進めていた『トレッドストーン計画』と言われる強化人間養成計画によって産み出された凄腕暗殺者とわかる。そしてジェイソン・ボーンはある暗殺計画を失敗したところが映画の冒頭に繋がる。そして、暗殺計画やトレッドストーン計画そのものの情報が漏れないよう、CIAはジェイソン・ボーンの命を狙うことに。

道中知り合った女性・マリーと共に、次々に追ってくる暗殺者と戦いながら、ジェイソン・ボーンは自らの記憶を取り戻そうとする。

 

 

過剰なCGやワイヤーアクションを使わず、生身のアクションにこだわったというアクションシーンは当然地味ながらリアリティは確かにある。アクション映画ではお約束的な錆びついて弱った足場シーンも、足場が崩れることはなく、あっさりジャンプして着地を決める。

序盤のチューリッヒでのカーチェイスシーンも反対車線に突っ込んだりと無茶な運転はしているのだが、玉突き事故を起こして炎上なんてことは起こらない。終盤でやっと追手のバイクが対向車にぶつかる程度だ。この映画を見る少し前に『ワイルドスピード』を見た自分にはこのカーアクションは何とも刺激の少ないものだったが、それが逆に緊迫感を演出しているようにも思えた。スーパーマン的超展開が無い分、少しのピンチにハラハラできる。

 

 

命を狙う暗殺者と戦いながら取り戻す記憶(=アイデンティティー)のお話かと思えばどうもそうでもないのか? と物語が進むにつれて考えさせられる。

この『トレッドストーン計画』出身の暗殺者は「絶対にミスを犯さない暗殺マシーン」と劇中で表現されるのだ。しかしボーンはマリーとの逃走劇の中で、彼女に特別な想いを抱き始める。彼女の前ではずっと眠れなかったはずが安心して深い眠りに落ちさえする。

つまりこれは訓練された殺戮マシーンが人としての心(=アイデンティティー)を獲得する物語なのだ!!と、途中ややテンションが上がったのだがその考えは物語終盤に否定される。。。

失敗した任務の記憶をボーンは取り戻すのだが、その失敗理由が「標的が家族(子供達)と一緒にいたから」

暗殺者一人を作り上げるのに3000万ドル(←記憶曖昧)も掛けた『トレッドストーン計画』の誇る殺戮マシーンが標的のファミリーを見て日和っちゃうとか育成大失敗やんか!

と思わず叫ばずにはいられないあんぐり展開です。ボーンは元々殺戮マシーンではなく、人としての心を残していたのですね。いやいや、マリーとの出会いで人の心取り戻す~的なベタな展開でよかったんじゃないの? とか考えたりもしたのですが。そういった物語的ご都合主義やベタな展開を否定した作品と納得すれば、なるほど一貫した作品と言えるのかもしれません。

 

 

と、一旦は畳んでみたものの、どうしても納得いかないというか、ツッコミを入れずにいられない部分がひとつ。

お尻から出てきた銀行口座を示すカプセルです。百歩譲ってケツに埋め込むのは良しとしよう。そしてそこから出てきたのが決定的な機密情報だとかならわかる。しかしそこから出てくるのはボーンの仕事道具だ。作中には他のエージェントが命令を受け、作戦に当たるシーンが挿入される。皆ボーンと同じく幾種類ものパスポートや武器を用意するシーンだ。しかしその誰もがケツにカプセルを埋め込んでいる例はない。そもそも銀行口座になんか預けていない。それぞれの隠れ場所に保管している。

納得がいかない!

さらにそのケツのカプセルは銀行の口座番号を示すものなのだがちょっと待て! たかだか10桁程度の数字ですよ? 作中にボーンは訓練された自身の特性として、レストランに入った際に駐車場の車のナンバーを全て暗記したとか言っている。それなのに10桁程度の数字が覚えられないと?

しかし結果として記憶喪失になってしまったボーンにとって、このケツに埋め込まれた口座番号から全てが始まるわけだから物語にとって必須のアイテムだったわけなのだが、、、

って記憶喪失ありきの物語上のご都合でケツにカプセル埋め込まれたボーンちゃん大丈夫??

と、ちゃぶ台ひっくり返したくなる映画です。

 

 

 

 

 

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【小説感想】登場人物と結ぶ信頼関係ー森見登美彦『ペンギン・ハイウェイ』

小説 SF 感想

ペンギン・ハイウェイ (角川文庫)

お薦め本オールタイムベスト

誰かにオススメの本を訊ねられた時、そしてその相手が可愛い女の子だった場合、よほど特殊なケースを除いていきなり安部公房を薦めたりするのは得策ではない。もちろん相手の女の子の読書遍歴を元によりディープな読書体験を共有することほど艶やかな体験は他にないのだが、共感されずに変態のレッテルを貼られてしまうリスクを考えると、無難に「さわやかさ」を持った作品をオススメするのがベターだ。

そんな理由でぼくはオススメの本を訊ねられた際の候補の、そのかなり上位に君臨し続ける作品が森見登美彦ペンギン・ハイウェイ』なのです。

 

森見登美彦作品といえば

森見登美彦といえば『夜は短し歩けよ乙女』『四畳半神話体系』などが有名。(というかぼくが『ペンギン・ハイウェイ』含めてこの三作しか読んだことがない)その中での勝手なイメージとしては鬱屈とした京大生の主人公がタラタラと(しかし小気味いい)自分語りを延々繰り返しつつ、個性の強いサブキャラクター達と京都の街を舞台にどんちゃん騒ぎを繰り広げるといった感じ。キャラクターの面白みやユーモア溢れる語りが非常に楽しい作品達。そして『夜は短し歩けよ乙女』での百鬼夜行的なファンタジー展開や『四畳半神話体系』での世界線移動のSF的展開と、作品を貫いての大きなギミックが仕掛けられ、物語の奥行きを演出している。ぼくは好きな作家さんだ。

 

夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)

夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)

 

 

四畳半神話大系 (角川文庫)

四畳半神話大系 (角川文庫)

 

 

2010年日本SF大賞受賞作

ペンギン・ハイウェイ』は2010年日本SF大賞受賞作である。

という訳でもちろんSF作品で、未知との遭遇のお話にあたる。しかもそれが高次元世界のお話。物語の中にはタイムトラベルであったり閉鎖空間であったりが描かれるが、そのあたりを理論的に解説される訳ではない。SFと言っても藤子不二雄よろしく『少し不思議』的SFという感じでしょうか。ファンタジーSFという感じ(そんなカテゴリーがあるのか知らないですが)。なので日本SF大賞受賞作!!と、ハードSF的センスオブワンダーを求めて読み始めると肩透かしをくらいますし、設定の揚げ足取りに走ってしまう可能性あり。あくまでSF的設定は作品の彩りの一つであり、この小説の本質はキャラクター小説です。そしてキャラクター小説として『ペンギン・ハイウェイ』は非常に心揺さぶられる作品で、だからこそ様々な人にぼくが自信を持ってお薦めできる小説になっている。

 

魅力溢れる登場人物達が愛おしい

主人公は小学4年生のアオヤマ君。舞台は丘がなだらかに続く郊外の街。京大生が主人公でも京都が舞台でもない。ただこのアオヤマ君は普通の小学4年生ではない。

 

ぼくはたいへん頭が良く、しかも努力をおこたらずに勉強するのである。だから、将来はきっとえらい人間になるだろう。

(出典:『ペンギン・ハイウェイ』)

 

冒頭の一文が以上である。なかなかパンチの効いた語りだしだ。小賢しい、生意気な小学生感たっぷりである。下手をすればこの一文で本を閉じてしまう読者もいるのではないか? と心配してしまう程。まぁこの主人公のアオヤマ君のキャラクターになかなか馴染めなかったという意見も実際に聞いてはいるのだが。しかし相手は小学4年生だ。広い心を持って作品を読み進めて欲しい。それに彼はただの小賢しく生意気な少年ではない。彼は自らをそう語るに足る努力を日頃から積み重ねているのである。彼は小学4年生にして「相対性理論」を読み齧り、オリジナルの速記法を用いてポケットの中でメモを取る。全く共感のわかないスーパー小学生なのだ。しかし彼の素直な性格や自らの信念に則りトライアンドエラーを繰り返す様は、多くの大人の胸に刺さる部分があるとぼくは思う。

アオヤマ君はありとあらゆるものを記録していく。お父さんに教えてもらったノートの書き方に忠実に、身の回りの起こった事、疑問点、新たな発見を記録していく。と、アオヤマ君の人となりを語りだすとキリもなさそうなのでこの位に。

 

アオヤマ君ともう一人、物語の上で最重要となる人物が歯科医院のお姉さんである。奔放でミステリアスなお姉さん。アオヤマ君とは「海辺のカフェ」ではともにチェスを行ったりとプライベートでも親しい仲。お姉さんに対し密かな想いを寄せる(それを恋心とはまだ自覚のない)アオヤマ君の最重要研究対象である。そしておっぱいが大きい。

 

その他にもクラスメイトでチェスの普及に努めるハマモトさん。彼女もまた「相対性理論」を読み齧り、アオヤマ君も一目置く存在。アオヤマ君の研究仲間のウチダ君。彼は控えめな性格ながら、少年らしい「死」や「ブラックホール」といった大きなテーマに漠然とした不安感を抱く。ぼくも含め、多くの読者がスーパー小学生であるアオヤマ君よりもウチダ君に共感できるのではないだろうか? そしてガキ大将・スズキ君帝国初代皇帝のスズキ君。そして、全てを見通し見守るアオヤマ君のお父さん。と、みなそれぞれ一癖二癖ありながらも愛すべき登場人物達が舞台に配置される。

 

ざっくりあらすじ(※ネタバレ注意)

ある日、アオヤマ君の住む郊外の街に突如ペンギンの群れが出現する。どこから現れたのか? 謎に満ちたペンギン出現は早速アオヤマ君の研究課題となる。そんな中、アオヤマ君にとってもう一つの研究対象であるお姉さんが、コーラの缶をペンギンに変身させてみせる。このことから「お姉さんとペンギンの謎」がアオヤマ君にとっての最優先課題となる。しかしどうにもアオヤマ君の研究が進まずにいる中で、アオヤマ君の周りではまた様々な出来事が起こっていく。ハマモトさんが見つけてきた謎の球体『<海>』や街中で目撃の噂が流れる不気味な生き物『ジャバウォック』

物語が進む中でアオヤマ君は気付く。それら全ての現象がお姉さんに繋がっていると。

『<海>』は『神様が作るのに失敗したー穴』そしてお姉さんは世界に空いた『穴』を修理するための存在。お姉さんはその使命のまま、『穴』を塞いで消えてしまう。アオヤマ君は約束する「ぼくは会いにいきます」と。

 

寂しい別れと約束

と、ラストは『まどマギ』する訳です。お姉さんが実は人間ではなく高次元の存在であったり、<海>を中心に街全体が閉鎖空間になっていたりと、物語の後半でとんでも設定が次々にぶっこまれていくのですがそこはご愛嬌。先に書いたとおり、これはキャラクター小説で、登場人物の経験を楽しむ物語なのだ。「海辺のカフェ」でのラストシーン。アオヤマ君とお姉さんの会話シーンでは二人の残された時間が物語の残り時間とリンクし、どうしてもページをめくる手に未練が生まれる感動作である。

 

登場人物と読者間での信頼関係

ペンギン・ハイウェイ』はその他名作と同様、読了の寂しさの残る作品である。この物語をもっと読み続けていたいと思える紛れもない名作だ。しかし『ペンギン・ハイウェイ』には読了後、寂しさの他にもう一つ残るものある。

それはアオヤマ君への信頼だ。

ラストシーン。消え行くお姉さんとアオヤマ君は約束する。大人になって、人類代表になって、必ずお姉さんに会いに行くと。無謀と思える挑戦である。そこに小説的ご都合主義は介在しない。それでもきっと、アオヤマ君はお姉さんに会いに行くのだろうと思う。毎日研究ノートを取り、課題を一つ一つクリアし、いずれ必ずアオヤマ君はお姉さんと再会するだろう。

ぼくは思うのです。登場人物に強く感情移入することはあれど、かつてこれ程まで登場人物を信頼しきったことがあっただろうか?

その辺り、萩尾望都さんによる文庫版あとがきも素晴らしい。

 

彼は世界の果てに向かって走る。消えてしまったお姉さんにもう一度会えるペンギン・ハイウェイを走る。大人になってお姉さんに会う。そして一緒に海辺の街へ行く。

(出典:『ペンギン・ハイウェイ』あとがき)

 

ネタバレ全開のあとがきなのだが。

萩尾望都さんもまたぼくと同じくアオヤマ君を信頼してやまないお一人のようだ。特異な体験のできる小説なので未読の方は是非一読を(ほぼほぼネタバレしてしまいましたが)

 

ところで冒頭に記した通り、可愛い女の子にこの本を薦めた結果、彼女ができました!! なんて言う後日談はなく、あまり刺さらなかったようです……。

その子のことが少し嫌いになりました(苦笑)

 

ちょうどこの文章を書いているタイミングで森見登美彦さんの『夜行』が直木賞にノミネートされたというニュースを聞いた。近く手に取ろうと思います。おわり。

 

 

 

ペンギン・ハイウェイ (角川文庫)

ペンギン・ハイウェイ (角川文庫)

 

 

夜行

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